この記事では、ノーベル賞を受賞した『量子ドットの「発見」と「合成」』が、化学物理工学と密接につながっていることについて解説します。
・ノーベル化学賞の概要、量子ドットとは?
2023年の10月4日に、「量子ドットの発見と合成」に関して MITのモウンジ・バウェンディ教授、コロンビア大学のルイス・ブラス教授、ナノクリスタルズテクノロジーのアレクセイ・エキモフ博士 がノーベル化学賞を受賞されました。
量子ドットとは、非常に小さな半導体の粒子(半導体のナノ粒子)で、この記事を見ている人はきっと、量子ドットがとてもきれいに光る性質を持っていることをご存知でしょう。これは量子ドットが粒子のサイズに応じた特定の波長の光を吸収、放出するからで、その性質を利用して、ディスプレイやLED照明、太陽電池、がんのセンサー、さらには量子暗号通信などへの応用が期待されています。
ノーベル化学賞は、わずかな大きさの違いで発光の色が変わる量子ドットの性質を発見したこと、そして狙ったとおりのサイズの量子ドットを安定して合成する技術を確立したこと、に対して授与されました。
・量子ドットの物理的側面、化学的側面
半導体というと、電子機器類にたくさん入っている材料、という印象ですよね。半導体は電場をかけると電気を通すようになる材料です。半導体の中では、電子などが比較的自由に動き回れるのですが、半導体をナノ粒子にすると(量子ドットにすると)、電子はナノ粒子の中に閉じ込められて、自由に動き回るときと異なるふるまいをするようになり、サイズに応じて色が変化することになります。電子や光子のナノスケールでのふるまいを理解したり、「発見」するためには、「量子力学」の知識が必要不可欠で、これは「物理」に類する学問になります。
一方で、量子ドットを社会の役に立てるためには、大量に均一な粒子サイズの量子ドットをつくる必要が出てきます。大量に均一なものを作るための学問は「化学工学」という学問です。高校生はあまり耳慣れないかと思いますが、それは高校では扱わないからなんですね。量子ドットをチューブまたはタンクの中で大量に作るのは、フラスコの中でちょっと作るのとはわけが違って、チューブやタンク内を充分に均一にしたり、反応で上がった温度をどう制御するかなど、いろいろなことを考える必要があって、これを考える学問が「化学工学」です。
・量子ドットと化学物理工学科
「量子ドットの発見と合成」はノーベル「化学賞」でありながら、実は物理と化学の両方が深く関係していて、また、これをさらに発展させてみなさんの生活に浸透させるためにはやはり、応用物理(物理工学)と化学工学、両方の理解が必要になるのです。東京農工大学の化学物理工学科はこれらの学問分野を同時にカバーしている日本で唯一の学科で、例えば下記の科目が対応する科目の一例になります。
量子力学および演習、ナノ量子材料工学、電子デバイス工学、
ケミカルエンジニアリング基礎、反応工学、拡散分離工学 等
また、3年生になると新素材に関する科目パッケージがあり、電気電子材料工学、電子物性工学、光エレクトロニクス、高分子工学の授業科目を学べます(科目パッケージには、その他にエネルギーと環境の各パッケージがあります)。
・化学物理工学科での量子ドットの研究
もちろん、化学物理工学科ではそんな量子ドットについても研究しています。ビスリ(Bisri)准教授は量子ドットについて研究をなさっています。ちょっと難しいかもしれませんが、よければプレスリリースも覗いてみてください!
www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2023/
また、化学物理工学科では量子ドットに関連する、ナノテクノロジー、量子ドットを用いた太陽電池、センサー、エネルギーハーベストデバイス、スマート農業、などの研究も行っていますので、興味がわきましたら、各研究室のHPなどを覗いてみてください。
こんなふうに化学と物理の両方がかかわっている技術は枚挙にいとまがありません。何かを作るのには化学が必要だし、その性質を理解するのには物理が必要だからです。両方がかかわっていないものの方が少ないかもしれません。化学と物理両方について造詣を深めることは、社会の発展にも密接につながっているのです。みなさんもぜひ我々と一緒に化学物理工学科で学んでみませんか?
文責:H. O. (2023/10/6)