● 先生は日本に来てもう長いんですよね。日本に来た理由や背景などを教えていただけますか
日本に来てもう30年になります。日本に来たきっかけは、インドネシア・バンドン工科大学(通称ITB)の一年生の時、国の政府派遣留学制度に合格したことです。その時、「君の留学先は日本、日本語を学び化学工学を専攻しなさい」と言われました。ITBでは物理工学科の学生でしたが、中退して日本に来てこれまでずっと化学工学を専門にしています。化学物理工学科は、主に化学工学系と物理工学系の教員から構成されますので、不思議な縁を感じています。
●化学工学はどのような学問ですか
化学工学は、化学、物理、数学および経済学の原理を使って、物質とエネルギーを効率的に使用、生産、変換、輸送する工学の一分野です。化学工学は多様性があって、異分野とのコミュニケーションがやりやすい学問です。農工大に着任する前は先端材料プロセス分野に約9年間いて「環境」というキーワードを強く意識したことがありませんでした。私の研究方向性の転機は、2008年頃に大勢の農学系研究者の皆さんと一緒に「植物と微粒子」という国のプロジェクトに参加して、環境問題に正面から取り組み始めたことです。物質・エネルギーの輸送について深く理解する化学工学の教育を受けていたおかげで、様々な専門をもつ研究者の話を理解し共同研究を行うことができました。
●先生の研究テーマについて教えていただけますか
“Good”材料プロセス(モノづくり)と”Bad”環境問題(フィールド)を対象にしています。一例ですが、気相中または液相中に浮遊する微粒子の挙動に着目し、省資源型の機能性材料(酵素、肥料、医薬品原料等)の製造法を開発しています。一方で、環境中の物質(PM1.0、農薬、水等)輸送の制御に向けた、計測法とその関連の固定化法の開発にも取り組んでいます。
● 東京農工大学の学びの特徴はどのようなところにあるとお考えですか。
小規模だから出来る「農」と「工」の組み合わせで世界的にもユニークな大学です。学生のサークル活動では、工学部生は農学部生とよく交流しています。大学院教育では異分野融合の学際的なプログラムもあります。化学物理工学科の誕生のきっかけもそうですが、地球環境が直面する複雑な諸課題による影響は一つの学問で解決できないものばかりです。異分野融合が問題解決の鍵であるとよく言われるようになっています。
● どのような学生に入学してほしいとお考えでしょうか。
これからの社会には、環境問題の重要性を認識できる高度なエンジニアの存在が不可欠です。将来「地球規模の課題」に向けて活躍したい皆さんにはぜひ化学物理工学科を意識してほしいです。日本にいながら、世界的な課題の発見と解決に貢献したいというスタンスも良いと思います。
● 先生が学生に指導する際に心がけていることを教えていただけますか。
今は情報を瞬時に入手可能な時代ですので、教員だけが知っている「情報」とは何かを常に考えています。授業では学生がフィードバックを出せるようにしています。
インターネットでなかなか得られないものは、やはり現場で発生する「感動」や「感性」です。お勧めしたいのは、大学や国の奨学金制度をつかって外国の大学に留学することです。例えば3年生時のone-semester制度では、10単位以上を外国の有力大学で取得することができます。4年生になる前に既に留学経験があると卒業論文の研究活動とその後の考え方の幅をかなり広げることができる、と多くの留学経験者が言っています。
● 先生はどのような学生を育てていきたいと考えていますでしょうか。
私の研究室では、学生がやりたい卒論研究テーマについて学生と一緒に設定・設計していきます。この工程が数カ月かかる作業になったりしますが、問題解決能力より課題設定能力が大事と言われる時代において求められる力を身に着けていると思います。また、マクロ(例えば数km規模)とミクロ(例えばμmオーダー)というスケールで物質とエネルギーの移動とそれらの関連リスク*について少しでも学んで卒業して欲しいです。
卒業研究には意味のある失敗をある程度経験し、その失敗から何が学べるかを考えていく姿勢が大事だと思います。目の前の課題と社会の課題に対する自分の位置づけと将来やるべきことを在学中に考えられる学生であって欲しいです。
● この記事を読む受験生、高校生に向けて一言メッセージをお願いします。
化学物理工学科は世界的にもOnly One学科であり、自分のアイデンティティを磨くチャンスです。卒業していく人材も貴重なパイオニア的な存在になると信じています。「化学?」「物理?」の間で悩んでいる皆さんにはぴったりの学科なのではないかと思います。
*リスク:化学物質が人や環境に悪影響を与える可能性
Interviewed: 2019/1, プロファイル + 他のInterview: Nikkan Kogyo Shimbun 日刊工業新聞 2019 + Blog: ResearchMap.jp/wlenggoro/blog