● 先生ご自身の研究内容について教えていただけますか。また、今後先生の研究が目指すところについてもお聞かせください。
結晶は分子が3次元的に規則正しく並んだ構造(パターン)を持っています。しかし、結晶が析出するとき、条件によっては、複数のパターンで析出してしまいます。医薬品では、このパターンによって効能が極端に変化してしまうので、パターンを分子レベルで制御する必要があります。当研究室のテーマである“結晶化工学”は、化学の工学のなかでは“晶析 (Crystallization) ”と呼ばれている分野です。このテーマを通じて、分子レベルのパターンを制御しながら高品質な医薬品等の製造方法を開発しています。
● 先生はなぜこの研究を始めたのですか
結晶として分類される物質は我々の身の周りにあふれています。医薬品の多くは結晶ですし、食品にも結晶を利用した製品が多く存在しています。健康サプリメントの多くも、その製造過程で結晶化現象が使われています。また、環境分野でも有価資源を回収する技術に、結晶化が利用されています。この様に結晶に関する研究は身近な学問であると共に工学的に非常に価値のある研究対象となっているのでこの研究を始めました。
● この研究は、社会でどのように役に立つと考えられますか
近年の原薬は、分子量が大きくなり、難溶化しています。しかし、結晶粒子の大きさを小さくすれば、より早く溶けるようになり、より効きやすくなります。この様に、より高度な医薬品製造を行うためには、 “結晶化工学 ”や“晶析”が必要です。
原薬を開発しても、それを大規模に製造できなければ社会貢献には結びつきません。研究室は、常に新しい結晶粒子群の作り方(製造のための操作)が創造されてきています。
今後の進展として、水なしで飲める医薬品など、飲みやすく効きやすい医薬品の開発が望まれています。これに答えるためには、結晶内の分子のパッキングを直接制御する必要があります。今後、パッキングの直接制御に向けて研究が進むと考えています。
● これ以外にどのような研究をされていますか
医薬品づくり以外にも、食品づくり、そしてエネルギー関連の電池材料づくり、環境関連の有価資源回収技術など結晶粒子群が関連した研究をしています。
● 先生は学生時代にどのような夢をお持ちでしたか
もの創りをとおして、人の健康や食生活に関する分野に携わりたいと考えていました。医学部や薬学部に限らず工学部(化学物理工学科)でその夢は叶います。
● この記事を読む受験生・高校生に向けて一言メッセージをお願いします。
結晶創りには、なぜ、どうしての考えが必須です。好奇心の炎を絶やさないことが重要です。我々が直面している課題の多くは、化学や物理などの単一の学問だけでは解けなくなってきています。なので、いろいろな学問に興味を持っておくことが大切です。化学物理工学科は化学と物理をバランス良く学び研究することができます。
滝山博志(生まれ:香川県)
現:化学システム工学科・教員
Interview: 2018/7/12
教科書(2013):晶析の強化書【増補版】~有機合成者でもわかる晶析操作と結晶品質の最適化~(著者:滝山博志)
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